
日本テレビからの回答を受け、記者会見する全国児童養護施設協議会の藤野興一会長(中央)ら=東京・霞が関の厚生労働省で2014年2月5日、須賀川理撮影
児童養護施設を舞台にしたドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ系)は、親元で暮らせない子どもたちや施設への偏見につながるのか。日テレ側の謝罪と放送継続で問題は一応の収束をみたが、当事者たちの視線はなお複雑だ。
●出身者から共感も
立場の違いにかかわらず、当事者のドラマへの賛否はさまざまだが、施設出身者からはドラマへの共感を語る声が少なくなかった。
関西の児童養護施設で育った女子大学生(19)は芦田愛菜(まな)さん(9)演じる主人公の少女が第1話で、親元に帰りたがる他の子を冷めた態度で見つめる場面を「私も『お母さんが恋しい』と思う子との間に温度差があった」と、自らの過去と重ねた。育児放棄する親など「大人の無責任さも表現されていた。施設を知らない人にも見てほしい」と訴える。
一方、施設職員や里親には、ドラマに対する批判の声が多くみられる。東京都清瀬市の児童養護施設で働く早川悟司さん(44)は「テレビのスイッチを切りたくなった。職員の立場としては、あまりにふざけていると感じる」と憤る。藤野興一・全国児童養護施設協議会会長も5日の記者会見で「子どもに寄り添う職員を傷つけている」と批判。また「子どもを手放す親も痛みを抱えている」と語り、親の立場への配慮も求めた。
東京都の児童養護施設で育ち、退所後にシングルマザーとして出産した女性(22)は、安定した仕事が見つからず、5カ月の長男を乳児院に託す。「自分の子も職員にいじめられるかも、と不安になる」と漏らす一方、子どもを施設に預けて男と暮らす母親の描写に「みんな事情があって育てられないのに、親に対して失礼だ」と感じたという。
●施設側と意識の差
こうした「ずれ」について、施設を巣立った若者らの「その後」を支援するアフターケア相談所「ゆずりは」(東京都)所長の高橋亜美さん(40)は、施設側と子どもの意識の差を指摘する。
「施設で暮らす子どもにとっては、親元で暮らす希望がかなわないまま集団生活のルールを守らされ、理不尽な思いをすることがいっぱい。職員は愛情をかけているつもりでも、子どもは『縛られている』感覚になることもあるのでは」
ドラマについては「子どもの心理としては一つの真実も伝えている」とみる。ドラマの内容がいじめなどにつながるという指摘については「社会に出ればいろいろな視線を受ける。子どもを守ろうとして情報を遮断し過ぎるのではなく、子どもにも社会にも状況をよく説明し、理解してもらうことが大切」と話す。
●虐待の現実
ドラマでは第1話で、罰として平手打ちやバケツを持たせて立たせるなど、職員の暴力が描かれた。多くの施設関係者がこの描写に反発したが、藤野会長は会見で「施設内権利侵害が起きているのも事実」とも語った。
里親家庭や施設などで暮らす子どもに対し、職員らが暴行を加えたり、心理的外傷を与えたりする行為は、2009年に施行された改正児童福祉法で「被措置児童等虐待」と位置づけられ、通告があった場合、自治体が調査する制度ができた。厚生労働省によると、09年度59件▽10年度39件▽11年度46件−−の虐待が認められた。具体的には、話を聞かない子どもをたたく▽感情的になり子どもの腹部を蹴る▽子どもの鼻を拳で殴る−−などが報告されている。
関東地方の施設で働く女性(38)は「虐待のつもりがなくても『しつけ』という名で罰を与える職員はいる」と明かす。女性の施設でも、子どもを突然殴る▽「バカ」「死ね」などの暴言を吐く▽朝方まで説教する−−などの行為が、今も行われているという。
「施設内虐待は、人手不足で余裕がなく、一生懸命な人が追い詰められた結果でもあるのです」
●社会的養護に理解
日テレ側の謝罪を受けた5日の会見で、慈恵病院の蓮田健・産婦人科部長は「大人たちの対立で、子どもたちがこれ以上傷つかないことが大切」と語った。
複数の関係者が、今回の騒動を通じて、親元で暮らせない子を社会で育てる「社会的養護」に理解が進むことへの期待を語った。小学校高学年から児童養護施設で暮らした女性(30)は「ドラマで社会的養護への関心が高まることには意義がある。大切なのは、施設で育ったことを当たり前のように言える社会になることだ」と訴えた。【榊真理子、山崎明子、反橋希美】
附上原文链接:http://mainichi.jp/select/news/20140219k0000e040166000c.html